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福島地方裁判所 昭和62年(わ)44号 判決

本店所在地

福島県会津若松市大戸町大字芦牧字下タ平一、一二八番地

商号

株式会社 丸峰観光ホテル

代表者

星弘子

本籍

福島県南会津郡田島町大字田島字谷地甲八番地の一

住居

福島県会津若松市大戸町大字芦牧字下タ平一、一二八番地

会社役員

星弘子

昭和一〇年一二月二〇日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件につき、当裁判所は検察官赤松幸夫出席のうえ審理をし、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社丸峰観光ホテルを罰金一、六〇〇万円に、被告人星弘子を懲役一年にそれぞれ処する。

被告人星弘子に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社丸峰観光ホテル(以下被告会社という)は、福島県会津若松市大戸町大字芦牧字下タ平一、一二八番地に本店を置き、旅館業等を目的とする資本金三、〇〇〇万円の株式会社であり、被告人星弘子は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人星は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上を除外するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五七年四月一日から昭和五八年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一〇七、二六四、四九〇円であったのにかかわらず、昭和五八年五月三〇日、福島県会津若松市城前一番八二号所在の所轄会津若松税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が五二、四七六、二三四円でこれに対する法人税額が一八、四七五、三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額四一、四八六、三〇〇円と右申告額との差額二三、〇一一、〇〇〇円を免れ

第二  昭和五八年四月一日から昭和五九年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四九、五五四、八九〇円であったのにかかわらず、昭和五九年五月二四日、前記会津若松税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一五、〇五一、〇二六円でこれに対する法人税額が一、八五三、五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一六、三四四、八〇〇円と右申告額との差額一四、四九一、三〇〇円を免れ

第三  昭和五九年四月一日から昭和六〇年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が六四、六四三、七二一円であったのにかかわらず、昭和六〇年五月二九日、前記会津若松税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二〇、四五二、〇二二円でこれに対する法人税額が四、四三〇、一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額二三、五六四、八〇〇円と右申告額との差額一九、一三四、七〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書五通

一  被告人の大蔵事務官に対する上申書二通

一  大蔵事務官作成の収入(結婚披露宴)調査書、売上除外額調査書、売店売上調査書、雑給調査書、消耗品費繰上計上額調査書、支払手数料調査書、サービス費調査書、雑費調査書、簿外預金調査書、雑収入調査書、交際費等の損金不算入額調査書、事業税認定損調査書

一  山田賢一、上野謹、鴻巣セツ子、佐瀬正行、佐瀬淳一の検察官に対する各供述調書

判示冒頭の事実につき

一  商業登記簿謄本五通

一  検察事務官作成の本店所在地の正式な表示についての電話聴取書

判示第一の事実につき

一  押収されている法人税確定申告書一綴(昭和六二年押第一一号の三)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(自昭和五七年四月一日至昭和五八年三月三一日)

判示第二の事実につき

一  押収されている法人税確定申告書一綴(前同号の二)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(自昭和五八年四月一日至昭和五九年三月三一日)

判示第三の事実につき

一  押収されている法人税確定申告書一綴(前同号の一)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(自昭和五九年四月一日至昭和六〇年三月三一日)

(法令の適用)

被告人星弘子の判示各所為は法人税法一五九条一項にそれぞれ該当するので、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で、同被告人を懲役一年に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

被告人星弘子の判示各所為はいずれも被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については法人税法一六四条一項により同法一五九条一項の罰金刑にそれぞれ処すべきところ、情状により同法一五九条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四八条二項により合算した金額の範囲内で被告会社を罰金一、六〇〇万円に処することとする。

(量刑の事情)

本件は、被告人星弘子が被告会社の会計処理に関し、昭和五七年ないし昭和五九年の三事業年度にわたって売上、雑収入、課税の対象となる交際費などを種々の方法で公簿上除外し、合計五六、六三七、〇〇〇円もの法人税の支払いを免れたという事案で、本件の所得、税額のほ脱率がいずれも高率であり、しかも被告人星は昭和五五年の税務調査の際、税務署から交際費の扱いなどが不正であることを指摘されていたにも拘らず、本件ほ脱に至ったもので、その刑事責任は軽いとはいえない。

しかしながら反面、被告人星は夫とともに幾多の辛酸をなめ乍ら旅館業を営み次第にその営業規模を拡大し、夫亡きあとは女手一つで会社経営にあたってきたが、過去の苦しい経験から、不況時に備えた資金、建物の増改築資金などを確保しておこうと本件各犯行に及んだことが認められ、その動機において若干同情の余地もあること、本件発覚後、修正申告書を提出して本税ほ脱分合計六〇、五三一、八〇〇円と加算税、延滞税合計二六、五四四、八〇〇円を支払っていること、被告人星には前科前歴もなく、本件につき反省していることなど被告人らに有利な事情があるので、これらを総合考慮のうえ主文のとおり量刑した。

よって主文のとおり判決する。

(裁判官 芥川具正)

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